日本人は、シャーマン国務次官発言を喜んでいるだけではいけない

 先月27日にアメリカのシャーマン国務次官が、戦後70周年記念会で、北東アジア政策について述べた。その中で、歴史問題について言及し、安易なナショナリズムで国民の賞賛を得ることを問題視した上で、歴史にこだわらず前向きに進むことを促し、暗に、歴史問題で日本を攻撃する中国や韓国を牽制する形をとった。

 このことは特に韓国内で大きな問題となり、韓国世論がアメリカに対する憤りで沸き立つ中、リッパート駐韓米大使に対する襲撃という韓国政権を揺るがすような大事件が起き、世界を驚かせた。

 シャーマン発言は、一方の日本では概ね好意的に受け入れられたが、親日国の台湾では、反対に彼女の発言は失望と警戒を持って受け止められた。というのもスピーチの後での台湾の記者からの質問に答えて彼女は、アメリカの台湾政策における事なかれ主義を明言したからだ。

台湾の記者の質問は、台湾がTPPへの加盟を希望していることに対するアメリカの考えを聞きたいということと、野党民進党党首・蔡英文が総選挙前に訪米を計画しているが、彼女に伝えたいことがあるか、という二点であった。

このような記者の質問の背景には、台中貿易協定の密室審議に反対したヒマワリ学生運動以降、台湾で勢いを得ている自主独立の機運がある。またTPPは、域内の経済自由化を推進するとともに、ブロックの外側に対しては関税同盟で対抗するという意味もあり、具体的には経済的軍事的に巨大化する中国に対する戦略的側面も強い。

しかしシャーマン国務次官は、台湾記者のそれらの質問に直接答えることはせず、かわりに台湾と中国本土との強い経済的統合を指摘し、異常な性格を帯びる海峡問題それ自体を肯定し、時の解決に任せると台湾を突き放した。このまま中国に呑み込まれるのが自然なことだと言わんばかりに。

台湾独立論者のアンディ・チャン氏は自身のメルマガの中で次のように語っている。

「シャーマン次官は「台湾の政治は台湾人民に任せる」と述べたが、事実はその正反対で、彼女が台湾と中国が平和を維持すれば経済が繁栄すると言ったのは、台湾人民の独立意識を抑えて国民党が政権を維持する、つまり来年の選挙で民進党が勝利しないよう干渉を行っているのだ。」

チャン氏はまた、台湾は繁栄しているどころか、台湾が中国に行った投資も台湾国内に還流せず雇用は減り、台湾は衰退の一途を辿っていると語っている。

ところがシャーマン国務次官が記者の質問を受けて放った第一声は「簡単なこと(Simple questions)」であり、これは会場内の笑いを誘った。

こういった対応を見ると、そもそもの話、彼女が台湾問題にどれだけの理解があるかに疑問に持たれる。台湾人としての意識の強い台湾人ならば、ホワイトハウス中国共産党政府の傀儡なのかと訝しむ人までいるだろう。そして台湾海峡問題は日本の安全保障にとって、死活的に重要な問題である。日本で好意的に受け止められたシャーマン発言であるが、喜んでいられる話などではまったくないのだ。

ちなみにニュースでも取り上げられた彼女の発言は、次の部分である。


「勿論、愛国的感情というものは依然として利用可能であり、どこの政治指導者にとっても、かつての敵を貶すことで安っぽい賞賛を得るのは難しいことではない。(Of course, nationalist feelings can still be exploited, and it’s not hard for a political leader anywhere to earn cheap applause by vilifying a former enemy. )」

この発言が暗に、中国だけでなく、韓国に対しても向けられたであろうことは、これに対する韓国人の反応や、先立って行われた元商務省次官シャピロ氏や元国家情報長官ブレア氏の発言からも明らかであるが、日本を韓国の「かつての敵(former enemy)」と呼ぶのであれば、これは彼女のあまりにも基本的な歴史的事実の誤認である(*1)。

もちろん韓国あるいは日帝下の朝鮮系日本人にとって、共産主義者などの一部の例外を除けば、日本はまったく敵ではなかった。

台湾に対する発言から推しても、もしかしたら、シャーマン国務次官はこのような基本的な日韓の歴史すら知らないのではなかろうか、そもそも口で言っていることとは裏腹に、オバマ政権はアジアに関心がまったく無いのではないかと危惧される。

アメリカの国防総省国務省の考えは別としても、現在のホワイトハウスには、我々はあまり多くのことは期待出来ないと考えておいた方が良いだろう。

韓国は今回のテロを従北勢力の、つまり北朝鮮のせいだとして、責任回避をする方向で、国際世論を収束させようと考えるかもしれない。

管理人の考えでは、アメリカはこの機会を利用し、韓国が逃げていたTHAADの配備や、日韓の歴史問題にしても、韓国に対して、これまでに無いような強い態度で臨むべき、と思うが、ホワイトハウスの事なかれ主義を思うと、せっかくシャーマン国務次官の発言で一歩前進した歴史問題も、アメリカは適当に濁すような形で終結を図ろうとするかもしれない。

日本にとっての安全保障を考えると、韓国の歴史問題を利用した反日は、これから起こりうる韓国人の反日テロや対日戦争の火種であり、看過出来る問題ではない。

日本政府および民間は、引き続き手を緩めることなく、さらに強力に、種々の方法を模索しつつ、アメリカに対して、シャピロ、ブレア、シャーマン氏がとったような言動の後押しをしていくべきであろう。


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註1
あまりに酷い誤認ではないかと考えたので、管理人も、「韓国に間違ったシグナルを送る恐れがある」としてホワイトハウスに、日本帝国陸海軍の朝鮮系日本人の志願者数の表を添えて、意見を出しておきました。

year     No. of applicant     passer   competition ratio
1938             2496              406                   7.3
1939          12,348                 613                 20.2
1940          84,443              3,060                 27.6
1941        144,743              3,208                 45.1
1942        254,273              4,077                 62.4
1943        303,394              6,000                 50.6

Number of Korean Japanese soldiers who applied to Japanese Imperial army and navy

但し、wikipediaの数字の方には一箇所誤りがある

この数字は、韓国人が主張する「日帝時代の弾圧と朝鮮人の抵抗の歴史」を否定する明確な証左であるので、良ければコピペして知り合いの外国人にどんどん送ってください。

なお以下のサイトからホワイトハウスへの意見を送ることが出来ます。


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下記は台湾の記者との質疑応答の部分

-------------------- 翻訳はじめ --------------------

モデレーター:後ろの方から。ジョン・ツァンから台湾に関する質問を受けよう。

質問:こんにちは。

シャーマン国務次官:こんにちは、ジョン。

質問:国務長官、ありがとうございます。 台湾CTIテレビのジョン・ツァンです。 あなたに質問が二つあります。 台湾は、ここワシントンでは最近あまり話題になりません。台米関係の現況の評価についてお尋ねします。

台湾もまたTPPへの参加を希望しています。アメリカ側としては、どういう見通しをお持ちですか? 

それから台湾の野党党首の蔡英文は次の総選挙の前に訪米を計画しています。アメリカは彼女からどういう言葉を聞きたいですか? そしてアメリカの側から彼女に聞かせたいことはどういうことですか?

シャーマン国務次官:簡単な質問ですね。 (笑い)。

司会者:なあ、ジョン。

シャーマン国務次官:台湾については、おそらくかつてほど話されていないでしょうが、そのことが良い兆候であるのだ、という理由の一端を述べます。

それが意味するのは次のことです。

台湾は安定しており、繁栄しています。 台湾は中国本土と強い結びつきを持っており、一つの中国と三つのコミュニケというアイディアは標準となっています。台湾と中国本土の間の経済統合は特にそうです。政治的事案は時間の中で解決される、それが現況なのです。

台湾と中国本土や、台湾と世界の他の国々との間には、いかなる時でも浮き沈みがありますが、海峡を挟んで起きていることが日々の不安や懸念の材料ではないという事実は良いことなのです。 

それは、私たちが知っているごとく、過去と比べてより平和で、より多くの繁栄があり、より公正な人生がそこにある、ということを意味します。

台湾の政治の面では、私は台湾の人々に今言ったことを託します。

-------------------- 翻訳おわり --------------------


下記は英文の該当箇所


MODERATOR: See in the back over – got a question on Taiwan from John Zang.

QUESTION: Hi.

UNDER SECRETARY SHERMAN: Hi, John.

QUESTION: Thank you, Madam Secretary. John Zang with CTI TV of Taiwan. I have two questions for you. Number one, Taiwan is not talked a lot about – Taiwan is not talked about a lot these days in this town. I would like to ask you to give an assessment of the current status of U.S.-Taiwan relations. Taiwan also wants to join the TPP. What is the prospect from the U.S. perspective? And Taiwan’s opposition leader, DPP chair Tsai Ing-wen, is planning on a visit to the U.S. before the next general elections. What is it that the U.S. wants to hear from her, and what is it that the U.S. wants her to hear from the U.S. side? Thank you very much.

UNDER SECRETARY SHERMAN: Simple questions. (Laughter.)

MODERATOR: Yeah, John.

UNDER SECRETARY SHERMAN: So that’s what I’ll say – I will say part of the reason that Taiwan is probably not talked about as much as it once was is a good sign. It means that Taiwan is stable, is prosperous, has a strong relationship with mainland China, that the concept of one China and the Three Communiques has become a standard, that the economic integration between Taiwan and mainland China is quite so – it is the status quo, that the political issues are worked out over time. In any given moment there are ups and downs between Taiwan and mainland China and Taiwan and the rest of the world, but the fact that it isn’t an everyday point of anxiety and concern about what’s happening cross-straits is a good thing. It means that there is more peace, there is more prosperity, and there is more just life as we know it.

In terms of Taiwan politics, I’m going to leave that to the people of Taiwan.