ジョン&万次郎2【差別と朝鮮文化1】

 ジョン&万次郎2【差別と朝鮮文化1】


 ジョン&万次郎1【日本における反韓の起源】


ジョン「やあ、万次郎。僕はアジアのことは全然知らないから、こないだの話、面白かったよ。あの時君が言った言葉で、『韓国人にとってはスポーツも汚い政治の世界と一緒なんだろうね。不思議なことは彼らにとってはこれが「正しい」ということなんだ。』ていうのがあったよね。

万次郎「ああ、そう言ったよ。」

ジョン「そこんとこが、どうもよくわからなくて、あれからその事について日本人の友だち数人に聞いてみたんだ。」

万次郎「何て言ってた?」

ジョン「ある人はね、それは『小中華思想』のせいだと言い、別の人はそれは『儒教』のせいだと言うんだ。」

万次郎「それはその通りだと思うよ。それでジョンはどう思った?」

ジョン「それらの説明はよくわかるんだけど、何て言うのかなあ、なんかもう一つしっくり来ないんだよね。」

万次郎「なるほど… あのね、韓国人の行動や言動を理解するのはそう難しいことじゃないと僕は思ってる… あのね、韓国人ていうのはさ、世界で一番道徳的な民族だって知ってた?」

ジョン「それは、彼らがそう考えてるっていうことだろう?」

万次郎「そう。彼らの考えている道徳と我々が考えている道徳は次元の違うものだ。それには今ジョンが言った儒教の影響なんかがあるんだけれど、その本質を理解しようと思ったら、もっと朝鮮族の文化や意識の古層にあるものを考えないといけない。」

ジョン「うん。」

万次郎「以前ある韓国人がネット上で韓国人について解説しているのを読んだことがあるんだけどね、印象に残っているのは彼の次の直裁な言葉だ。」

ジョン「どんなの?」

万次郎「『韓国人は基本的にレイシストなんだ。そして、レイシストが何故悪いのかとむしろ尋ねる国でもある。』」

ジョン「それだよ、それ。韓国人は差別をまるで『正しいこと』と感じているように見える。何でなのかな?」

万次郎「日本人にとっても不思議だけど、君たちアメリカ人には特に理解しづらいだろうね。」

ジョン「実際には人種差別があったとしても、建前としてそれを認めることはあり得ないからね。差別を積極的に肯定するなんてことは…」

万次郎「ちなみに日本人は韓国人から『猿』と呼ばれてるんだ。草彅剛というアイドルが日本にいるんだけど、以前彼が韓国のテレビ番組に出演した時のことだ。韓国人のお笑いタレントが出てきて彼の前で猿顏をした時、韓国のスタジオは大爆笑に包まれた…」

ジョン「何が面白いのかね…」

万次郎「こんあこともあった。アジアカップの日韓戦で、韓国のキ・ソンヨンはPKを決めた直後にテレビカメラの前で猿のモノマネをしたんだ。それで日本人を馬鹿にしたつもりなんだね。」

ジョン「何か小さい子供みたい。」

万次郎「韓国のニュースサイトは誰でもコメントがつけられるようになってるんだけど、日本関連の記事につけられるコメントは『猿』という表現であふれている。たとえばこんな感じ。」

  「なぜ猿たちが死ぬニュースを国際ニュースで伝えるのか。」

  「動物雑誌に記事を上げてください。」

  「猿たちよ、独島にバナナはない。」

  「歴史を忘れてしまったサルにバナナはない。」

  「猿には棒とバナナの両方が必要だ。
  バナナで誘惑してから、棒で犬を殴るように殴らなくてはならない。」

ジョン「 なんか酷い話だね。むしろ欧米人のレイシストがかつて黄色人種を猿と呼ぶことはあったけどね。僕らアメリカ人から見れば日本人も韓国人も見た目は変わらないんだけどなあ…」

万次郎「彼らが日本人を『猿』と呼ぶのは見た目じゃないんだ。彼らは日本人を文化的に劣った民族だと見做してるから、ああやって馬鹿にしてるんだね。」

ジョン「そんなことで面白がる韓国人こそ、文明の対極にいる野蛮な存在に思えるけどなあ…」

万次郎「そのような下劣な言動を繰り返しつつも、彼らは自らをもっとも礼儀正しい民族だと考えている。不思議だよね。この謎を解く為には、儒教の教えの内容を検討するだけでは見えてこないものがある。それよりも儒教そのものが社会の中でどういう役割や機能を歴史的に果たしていたかを考えることが大切で、その為には、歴史や政治、民族性など多角的な見方が必要になってくるんだ。」

ジョン「ふむふむ。」

万次郎「僕は韓国や朝鮮文化の専門家じゃないけど、それらを吟味することで、彼らの行動や言動の原理がわかり、彼らが次にどのように考えてどのような行動をするかがある程度予測出来るようになるだろうと考えてる。」

ジョン「うんうん。」

万次郎「ところでジョン、韓国と同じ民族からなる北朝鮮という国があるだろう。僕はね、あの国は世界で最も恐ろしい国じゃないかと考えてるんだ。」

ジョン「確かに北朝鮮は恐ろしい国だと思うけど、世界で一番と言われるとどうかなあ。ユダヤ人やアルメニア人、ジプシーは恐ろしい目を受けたし、ルワンダユーゴスラビア民族浄化…」

万次郎「それらは他民族に対して行われたことだろう?」

ジョン「じゃあ、ソ連や中国、カンボジアなんかはどう? 同じ民族に対して大粛清が行われたけど…」

万次郎「それら共産圏は酷かったね。そういった中でも北朝鮮が特に酷いと僕が思う理由は、その極度に発達した管理体制だ。1965年に北朝鮮にある東ドイツ大使館は本国にこう書き送っている。

『国民が不満を公言すると職を失う可能性もある。どこへ行ったか家族に知らされることもなく、多くの人々が行方不明になっている。親族の連帯責任のようなものもある。拘留者の家族は、住宅を与えられず、食料の配給も受けられないことがある。』

当時の東ドイツだって、秘密警察があって収容所があって酷いとこだったんだけど、ドイツ人の目から見ても、北朝鮮連座制度などによる極度の管理体制は異様だったんだと思う。ところでかつてこの北朝鮮に感銘して、同じことをやろうとした共産圏のリーダーがいたんだけど誰だか知ってるかい?」

ジョン「ルーマニアチャウシェスクだろう?」

万次郎「よく知ってるね。」

ジョン「ルーマニアに旅行したことがあるんだ。チャウシェスクの豪邸を見に行ったら、ガイドの人が、『チャウシェスク北朝鮮と同じことをルーマニア人に対して行おうとした』って何度も憤慨して語ってたのが印象的だったんで覚えてた。」

万次郎「チャウシェスク北朝鮮を訪れた時、人々が見事に管理・支配されてるのを見て感銘を受け、同じことをやろうと、北朝鮮主体思想までルーマニアに持ち込もうとしたんだね。」

ジョン「主体思想ってどんなもの?」

万次郎「簡単に言うと、社会政治的生命体論に基づいて、社会を脳髄、神経、手足の三つに分ける。そして金日成を脳髄、朝鮮労働党を神経として、人民を手足とするんだ。そしてこの三者が有機的に一体となった国家論を提唱したわけだ。」

ジョン「じゃあ、人民には何の自由もないことになるじゃないか。そんな馬鹿なことがあるもんかい。誰だって、はいはい私は手足になります、なんて素直に従うとは思えないけど…」

万次郎「そうだろう。だからチャウシェスクは失敗したのさ。でもね、北朝鮮ではそれがうまく行ってるんだ。冷戦期のソ連では、人々は表面的には党に従いながらも、親しい人同士では本音で話し、ジョークを言ったりなんかしてたもんさ。だからといって北朝鮮も同じだと思ってはいけない。北朝鮮では多くの人が本気で主体思想を信じ、金ファミリーを崇拝しているんだ。」

ジョン「なんか宗教みたいだね。」

万次郎「そう。北朝鮮のことを世界最大のカルト宗教と呼ぶ人もいる。チャウシェスクが失敗したのは、その北朝鮮ルーマニアの大きな違いを考慮に入れていなかったからだろう。」

ジョン「何だい、それは。」

万次郎「李氏朝鮮の五百年にわたる人民の洗脳の歴史さ。」

ジョン「ちょっと壮大な話になってきたね。」

万次郎「ところで腹が減ってきたんだけど、君は?」

ジョン「そうだね。何か食べる?」

万次郎「朝鮮焼肉なんかいいなあ。近くに済州島出身の人がやってるとこがあって、そこのタレが凄くうまいんだよ。」

ジョン「いいね。」

万次郎「続きはそこで話そう。君の奢りだよ。」

ジョン「……あまり高いのは注文すんなよな。」