ジョン&万次郎7【差別と朝鮮文化6】

ジョン&万次郎7【差別と朝鮮文化6】



ジョン&万次郎1【日本における反韓の起源】

ジョン&万次郎2【差別と朝鮮文化1】

ジョン&万次郎3【差別と朝鮮文化2】

ジョン&万次郎4【差別と朝鮮文化3】

ジョン&万次郎5【差別と朝鮮文化4】

ジョン&万次郎6【差別と朝鮮文化5】http://namadzu.hatenablog.com/entry/2015/04/20/150344

    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    ✳︎    


ジョン「今まで何度か、韓国の『ソーシャル・クライミング』とか、『社会的上昇への情熱』という言葉を万次郎は使ってきたよね。でもね、日本だって、『受験戦争』と言われる教育制度のエリート主義は昔から有名だったよ。ドイツなんかで、歴史的徒弟制度にのっとった実学的職業訓練コースと、官僚や政治家を目指すエリートコースに、小さい頃から振り分けられるのとは随分違うよね。その点日本と韓国はそんなに違うのかなあ。」

万次郎「なるほどね。アメリカから見れば、日本の教育も韓国の教育も、中央を目指すエリート主義に見えるかもね。確かに明治以降の日本の教育は、中央集権主義的道を歩んできたと思う。でもね、日本から見ると、韓国のエリート主義は極端に見えるんだね。」

ジョン「そんなもんかねえ。」

万次郎「そうだね、それじゃあ、それを説明する為に、一般の韓国人に語らせてみよう(と、iPadを取り出す)。……これは去年の暮れに、韓国のNAVERニュースに載った、金沢工科大学を紹介する記事だ。ちょっと読んで見て。」
--------------------------------------------------------------------------------
夕暮れが訪れる頃の午後6時、「夢考房」と呼ばれる建物に学生がちらほら集まり始めた。何でも自分が思うものを直接作ってみることができる放課後実習場である。
人力航空機(HPA)、ガソリン1Lで2000㎞以上を走る超低燃費車などだ。学生は、チームを分けてそれぞれのプロジェクトに没頭した。低燃費車の成形作業をしていた機械工学科2年生の伊藤翼(20)くんは、「毎日1日3時間以上作業している」と言った。彼の先輩たちは、自動車会社のホンダが主催した低燃費レース大会に出場して、2011年から今年まで4連続で優勝した。卒業した後、ほとんどがトヨタ・ホンダなどの屈指の自動車会社に就職する。伊藤くんは、「新しいエンジンを開発して、国際大会に出て優勝するのが夢」と語った。

金沢工大は、日本の代表的な「地方の強くて小さな大学」である。人口46万人の中小都市に位置し、周辺に大きな工業地帯もないが、この大学は今年、98.8%の就職率を記録した。就業者の半分以上が大企業に入社したり、公職に進出して就職が充実しているという評価を受けている。20年間大学を率いている石川憲一学長は、「自分で考えて(創造的な)行動をする(現場型の)技術者を育てるのが秘訣だ」と述べた。夢考房は、まさにそのような人材を育てる産室であるわけだ。

夢考房は、学生自らが出したアイデアを元に運営されている。学校は、生徒のアイデアを審査して、予算をサポートする。学生はそのお金で、夢考房の中にある自律型販売所で部品を直接購入する。学生の現実感覚を育て、部品を大切に使うようにするための措置だ。

もう一つのユニークな点は、教授やエンジニア、工場労働者が一緒に学生を指導するというものである。ここの責任者である松石正克教授は、工学博士であり、大企業の日立で30年以上ベテランエンジニアをしている。彼の学生がプロジェクトの大枠を作れば、14人の若いエンジニアが設計実務を手助けする。フライス盤などの機器の操作は、実際に生産現場で働く勤労者が訪ねてきて教えるのだ。

………実際にこの大学は、専任教員の半分が企業出身である。任用する際、博士号を持っているかどうかなどを問わない。一方の韓国は、全国の大学の工学専任教員1万5116人のうち、13.6%(2060人)が産業経験者だ。
--------------------------------------------------------------------------------

ジョン「なかなか良い話なんじゃないの。」

万次郎「韓国のネット上のニュースの良いところは、一般読者がコメントをつけられるようになってるとこでね、ここでは記事の内容よりも、韓国人がこの記事にどういう反応を示しているかということにに注目してみたい。韓国人たちは、韓国人同士で話している時は、意外とシビアな韓国批評家だったりするからね。」

ジョン「外国人と話をする時は違うのかい。」

万次郎「いいかい、韓国人が血縁の一族をすごく大切にすることは前に述べたよね。だから一族の中では内部批判があっても、外に対してそれを言うことは許されない。それは一族と祖先に対する裏切り行為だ。外に対してはあくまで、誇り高く一族を飾り立てて、一族の社会的地位を押し上げるよう努力しなければならない。そして韓国の民族主義は、この血族概念が拡大されたものだから、外国人に対して韓国の批判をすることは許されないんだ。」

ジョン「いついかなる時も駄目なのかい?」

万次郎「それはその場の空気にもよる。たとえば韓国人と一体一で話している時には彼から韓国批判を聞くこともあるだろう。でもね、韓国人が日本人の前で公に韓国を批判することは許されない。だから呉善花さんなんかは韓国人から殺人予告を受けることになる。」

ジョン「だから、こないだのガイドのお姉さんみたいなことになるんだね。」

万次郎「話を記事に戻すよ。金沢工科大学のユニークなエンジニア教育の話だったね。それについて、たとえば次のような韓国人のコメントがある。」

『韓国はああいうものにお金を使わない。共感14非共感2』
『エンジニアを冷遇する我が国では不可能なことである。共感8非共感1』

万次郎「共感非共感というのは、コメントを見た読者が、どちらかのボタンを押せるようになっていて、それがカウントされた数だ。」

ジョン「韓国ではエンジニアは評価されないの? サムソンとか現代自動車とか技術立国でもあるのにね。」

万次郎「ずいぶん変わったとは思うけど、伝統的にはそういう意識が強い。韓国の支配層であった両班は一切の実業というものを軽蔑したんだ。だから韓国の工業製品の基幹部品は日本の中小企業が支えている。韓国ではそういった中小企業がなかなか育たないんだ。」

ジョン「じゃあ韓国では組み立ててるだけ?」

万次郎「そこまでは言わないけど。でも組み立てに使ったりする各種ロボットもたいてい日本製だろうな。次のコメントは日系企業で働く韓国人によるもの。」

『私は今、日本関連会社に通っていますが、ここに通うようになってから、実際に日本のイメージがたくさん良くなりました。韓国は日本に学ぶ点が多い。共感14非共感1』

万次郎「そしてそのコメントにつけられたコメントがこれ。」

『日本の会社が韓国の会社と仕事をすると、韓国と韓国人のイメージが悪くなる。仕事はいい加減で、パリパリ(早く早く)で、確認メールを送らず、中間報告(プロセス)を省略して、結果だけを送ると。』

ジョン「韓国では現場でのコミュニケーション不足に問題があるみたいだね。」
あと仕事に対する姿勢の違いを指摘してるね。あと、それらは韓国人のせっかちな性格に起因するという分析だ。」

万次郎「性格についてなら次のようなコメントもある。」

『韓国人の特性は、鍋根性(一気に燃えあがり、一気に冷める)、パリパリ(速く速く)、カッとなる、遊び好き、直線的…典型的な半島の特徴である…中国は大国の特徴があって、ロシアと似ている点が多い…好むと好まざるに関わらず、ずっと日本人から学ぶべきを学ばなければならない。 勤勉さや専門性、創造性のようなものを学ばなければならない…共感15非共感4』

ジョン「自分たちをそういう風に見てるんだ。面白いね。しかしそんな性格でよく経済成長出来たもんだね。」

万次郎「日本が資金的技術的に支援してきたからね。でも彼らの強烈な虚栄心、世界から評価されたい、そのうち日本を見下したい、ていう気持ちが経済成長には随分プラスに働いただろうね。」

ジョン「あと、『半島の特徴』ていうのも始めて聞いたな。」

万次郎「彼らはイタリアやギリシャのニュースに触れる時よくそういう見方をするね。今までのコメントは韓国人の仕事に対する姿勢の自己分析だけど、次のコメントが僕がもっとも見せたかったものなんだ。」

『これはちょっとピントがずれた話かも知れないが、日本の小学生の将来の夢が、近所の花屋や近所のパン屋の主人などが1位とか2位ということに驚く。これも「ものづくり(職人)」が出てくる日本特有の教育と、職人優遇の精神が理由だと思う。韓国では想像できない将来の希望だ…国内での調査をみると、芸能人、大企業、公務員…共感7非共感1』

ジョン「韓国の小学生にとって花屋やパン屋が『想像できない将来の希望』!?  それってなんか、社会が病んでいないか?」

万次郎「なんだろうねえ。夢がないというべきか、限定された夢しかないというべきか。」

ジョン「アメリカでも『アメリカン・ドリーム』という言葉で人々の社会的上昇に対する欲望を煽るところもあるけど、夢にはもっと多様性があるけどなあ。」

万次郎「単純に言って、10人いて10人とも芸能人や大企業の社員を目指したとして、成功するのは一人ぐらいだろう。後の9人には『自激之心』が待っている。」

ジョン「『自激之心』って何?」

万次郎「韓国人がよく使う言葉で『自分の力が至らないことで陥る精神的ストレス』のこと。」

ジョン「ストレスは心の病気。やっぱり韓国社会は病を生み出すもとだよ。」

万次郎「このコメントの韓国人はまた『職人優遇の精神』が韓国で育たなかったからだと分析してるよね。日本人として言わせてもらえれば、その分析は半分正解で半分間違いだ。確かに日本では古来から技術というものを大切にしてきた伝統がある。でも江戸時代の職人気質やなんかを見ても、それは職人自身の側から、武士の価値観や商人の価値観に対する対抗的価値観として生まれてきた側面もあるんだね。彼らは職人であることに誇りを抱いていたが、その誇りは自ら勝ち取ったもので、決して支配階級の優遇から生まれたものではないんだね。」

ジョン「具体的にいうとどういうこと?」

万次郎「そうだな…  じゃ、手っ取り早く説明するために、永六輔という人が紹介してる、江戸っ子の職人言葉の例をあげてみよう。

⚫︎『お前さんは働きに来ているんじゃない。修行に来ているってことを忘れちゃいないかい?』

⚫︎『上手は下手の見本なり、下手は上手の見本なり』

万次郎「こういった言葉は明らかに武士道や仏道の影響を受けていて、技術を『道』と同様に考えていることがわかる。そうやって彼らは長い時間をかけて謙虚に腕を磨いていったんだね。」

⚫︎『オレは貧乏だ、しかし貧乏人じゃないよ』

万次郎「この言葉には、磨いた職人の腕こそを宝とする強い誇りが伺えるね。こんな風にして江戸の職人達は一方では支配者である武士の価値観を評価しながらも、それを彼らなりに消化して自分たちの価値観に作り変えた。そして大衆的気取りのなさと諧謔味を加えた彼らの言い回しは、ある面では杓子定規な武士の価値観を凌駕したとも言える。」

⚫︎『おい、若ェの!何にもできなくっていいから、せめて、元気のいい返事ができねェか』

万次郎「こんな言葉一つとっても、親方のビシッとした態度の裏に、弟子に対するいたわりの気持ちが感じられると思うけど、お武家様のしゃちほこばった言い方じゃ、同じことはとても表現できないと思うね。」

ジョン「江戸時代の職人の会話って、人生哲学の深みや言葉の巧みさにかけて、現代日本語よりはるかに優れてるんじゃないの?」

万次郎「落語なんかを聞いてるとよくそう思うね。とにかく彼らは職人であることに誇りを持ち、しかめっ面しい武士や、金銭に渋い商人達を馬鹿にしたりもしたもんだ。こういう風に、日本ではそれぞれの職種に応じて異なる価値観が発達したんだね。」

ジョン「一方の李氏朝鮮はどうだったんだろう?」

万次郎「李朝の職人や技術者たちは、実業を軽蔑する両班からは蔑まれていて、それを跳ね返すことは出来なかった。彼らが自分たちの職に誇りを持つことはなかったんだね。蔑視されていただけでなく、日本の職人たちの場合は、すぐ側にあって参考にできる価値観であった武士道や仏道のような存在が彼らにはなかったんだね。」

ジョン「それが半分正しくて半分謝りということだね。」

万次郎「そう。また李朝の強い中央集権の中にあって、ギルドのような同業組合もほとんど発達しなかったということもある。」

ジョン「じゃあ、商人たちはどうだい? 商人たちは両班に対抗する価値観を持たなかったのかい?」

万次郎「商業もあまり発達しなかったんだよ。貨幣経済が未発達ということもあったしね。」

ジョン「じゃあ、彼らの価値観はどこにあったんだろうね。」

万次郎「簡単に言ってしまうと、李朝の価値観とは両班になることだ。高い収入と特権を手に入れるためには両班になるしかなかった。この両班を目指す傾向は時代が下るほど強くなって、李朝後期の18、19世紀になると、ある意味で、すべての国民が両班を目指すようになった。両班に対する対抗的価値観といえるほどのものは、ついぞ現れなかったんだね。技術者は軽んじられた。商業行為には規制もあって大商人は育たなかった。仏教は保護を失って廃れた。仏教僧侶は賎民と同じ階級で京城市内に入ることも許されなかった。儒学者の中でもソンビとよばれるような学識ある高潔な人士は、山奥で隠遁的な生活を送ることが多かった。そしてこのように、体制に組み込まれた朱子学のみが唯一の価値観であり、そして現代の韓国社会の中においても、ひたすら両班を目指した李朝後期のエリート主義は、脈々と受け継がれているんだね。」

ジョン「なるほどね〜。この間の話では、朝鮮では元寇の時に武人政権が滅んだってことだけど、日本では朝廷を残しつつも武人政権が主になったってことだったよな。そして李朝では仏教が弾圧されたけれども、日本では儒教も仏教も神道もそれぞれの形で残り、武士の内部でその思想がまた独自の発展を遂げたんだね。朝鮮と比較すると、日本の良さはこの多様性にあることがよくわかるね。」

万次郎「多様性とそれを成り立たせる和解のシステムだろうな。」

ジョン「一方の朝鮮は、画一性とそこに至らしめた排他性が特徴だね。それは一体どこから来たんだろう?」

万次郎「その画一化をもたらした歴史的主体は両班たちだろうね。」

ジョン「う〜む。しからば両班とは何ぞや? 」

万次郎「そう、それを解くことが、現在の韓国社会を理解する為の鍵だろうね。」