タイ反政府デモとは何だったのか 1

先日ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長が安部首相に対して、タイのプラユット首相の来日を前に、タイの人権状況や軍事政権に圧力をかけるよう申し入れた( http://thailog.net/2015/02/08/103381/ )。タイはそんなに酷い国なのか。ニュースや関連サイトの説明を読んでも、等身大のタイの姿はなかなか見えてこない。

以下に、タイ在住で世界を股にかけているアメリカ人ジャーナリスト、マイケル・ヨン氏のオンラインマガジンから、1913-4に起きたタイ反政府デモの記事を翻訳する。彼はまた慰安婦問題に関して、日本側の言い分を世界に発信している数少ない外国人の一人でもある( http://michaelyonjp.blogspot.jp )。

Article about Thai political crisis(1913-14) . Translated from "Machael Yon Online Magazine"


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タイ人の抗議者たちは暴力的か?

20 April 2014

[写真] 2013年12月26日にバンコクのディンデンで起きた衝突の目撃者

質問は単純だが、それに対する答えはそうではない。まず最初に、主な参加者の輪郭を描かなければならない。この取り急ぎの報告では、「ホイッスル吹き」として知られるタイ人の抗議者たちを第一に論じる。赤シャツ隊については別途分析することにしよう。

一般用語:

反政府 & 改革派:

1. 人民民主改革委員会 (PDRC Peoples’ Democratic Reform Committee) - 最大派閥: 非暴力
2. 民主党(Democrat Party) – 人民改委を支持するが、いくつか異なる点がある: 非暴力
3. 黄シャツ隊 (民主市民連合 PAD Peoples’ Alliance for Democracy) 
          – 組織的としては、現在の政治的プロセスに公式的に参加していない
4. KPT --Kor Por Tor:  主に非暴力だが戦う意思はある(英語: NSPRT.)
5. 農民 –  腐った卵を投げつけ、大量の籾殻つきの米を捨てる: 非暴力
6. 自由ブッダ: 非暴力(護衛が攻撃に対する防御としては反撃する)
7. ダンマ・アーミー(サンティ・アソク教団): 非暴力

農民を除いて、上記のグループが「ホイッスル吹き」と考えられている。

農民には彼等自身の計画があり、それは政府が誓約した計画によって農民から盗んだコメの代金の支払いを単に求めることであった。ホイッスル吹きと農民は相互に支え合っている。

8. 軍隊 - 表面上は中立: 平穏さを保つ努力している。KPT、自由ブッダ、PDRCと同盟。軍隊は中立を表明しているが、行動ではホイッスル吹きをサポートしている。

上記の全てのグループは、君主制を支持している。彼等は、自らの行動は制度としての王権をサポートするものであると明白に述べている。

[写真] 赤シャツ隊によるPDRC攻撃後の手榴弾によるダメージ

親政府 & 親インラック/タクシン
1. タイ貢献党: 暴力を用いる。現政権。
2. 赤シャツ隊(反独裁民主統一戦線 UDD United Front for Democracy against Dictatorship): 暴力とテロを用いる。内部に派閥がある。
3. 未確認の雇われものたち("Men in Black," "Ronin"): 暴力的
4. タイ警察: あるものは暴力的。主に首相をサポートするが、個々人には例外あり

タイ貢献党と赤シャツ隊内部には派閥が存在する。これらの組織については別の処で分析する。

何人かの赤シャツ隊のリーダーは、あけすけに暴力を呼びかける。彼等は時には、前もって攻撃を宣言する。その後彼等は、彼等のラジオ番組やフェイスブックのようなソーシャル・メディアを通じて、集会で起きた出来事を公に祝う。奇奇怪怪なことは、暴力を用いつつ、さらに続けていく計画だと公言しているさなかにあっても、批判者が彼等の暴力に焦点を当てると、自分たちは暴力的でないといって怒り出すことである。

[写真] ホイッスル吹きの集会: 黄色はどこ?

親政府の赤シャツ隊は、総じて歴史的君主制に批判的であるが、多くの個人メンバーは国王への忠誠をとどめている。そして他の個人メンバーは王制に対して過激なまでに批判的である。多くのタイ人は君主制の味方であると言い張るであろうが、不敬罪の存在が、この事柄に関してタイ人が自由率直に話すことを阻んでいる。

タイ貢献党の恩赦法案の発議の失敗の余波の中において噴出した政治的な抗議は、黄シャツ隊と赤シャツ隊の諍いではない。

「黄シャツ隊」を反政府抗議者と分類したジャーナリスト達は、知的怠惰という、あるいは「知らないまま書く」という罪を犯している。「黄 vs 赤」の戦いと分類したジャーナリスト達は、読者のリーディング・リストから削ぎ落とされねばならない。

歴史的黄シャツ組織の多くの個人メンバーは、最近の抗議に関わり合いを持ったが、黄シャツ組織自体はこの闘争となんら関わっておらず、黄シャツ隊のメンバーは、ホイッスル吹きの構成員の中の少数派を意味するに過ぎない。

[写真] ホイッスル吹き: 黄色はどこ?目の前に証拠があるにも拘らず、あるジャーナリスト達は、なおも、全てのホイッスル吹きを「黄シャツPDRC」と呼んで憚らない。

黄シャツ民主市民連合の何年にも渡るデモは、膨大な数の群衆による信じられない光景を生み出してきた。バンコクの一部がまるで黄色い大海原になったかのようだ。同じように赤シャツ反独裁民主統一戦線の群衆は真っ赤な海を生み出した。グーグル・イメージで検索すれば、この主張の充分すぎる証拠が手に入る。

[写真] 稲作農民が、農民であることを証明する為に、私に手を見せてくれている

タイの農民組織が、黄シャツ隊やPDRCKPT、自由ブッダの僧侶、ダンマ・アーミーと手を取り合う姿は想像し難いものであった。歴史的には農民と、PDRCのようなグループとのあいだに共通点はほとんど無かったが、今日彼らの間には暖かい絆がある。

[写真] 多くの農民が、自らが農民であることを示す為に、筆者にその足を見せてくれた。それは赤シャツ隊が彼らのことを、本当の農民ではなく、人民改委に雇われている人間だと言った後のことだ。彼らは本当の農民である。

[写真] タイの農民は、盗まれたコメの支払いを求めてバンコクにやってきたのである。

[写真] ホイッスル吹きを象徴する色は、赤・白・青であるが、彼らは特に決まった色のシャツを着る、ということはない。赤・白・青はタイの国旗の色なのである。

(続く)


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マイケル・ヨン氏はアメリカの人で、独立取材を続けるジャーナリスト、コラムニストであり、また写真家でもある。2008年にNew York Times紙は、マイケル・ヨン氏のことを、最も長くイラクで戦闘部隊に従軍した作家であると紹介している。

日本では慰安婦問題で、公平な報道をする数少ない欧米人ジャーナリストの1人として知られている。

マイケル・ヨン氏の慰安婦関連の記事の翻訳

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