タイ反政府デモとは何だったのか 4

マイケル・ヨン氏のオンライン・マガジンからの翻訳です。
過渡期にあるタイ (Thailand in Transition) というタイトルがついています。
タイ反政府デモの中心勢力であった人民民主改革委員会(PDRC) のステープ氏の演説要旨です。
氏はアピシット政権下で副首相も務めました。

元記事は以下


---------- 翻訳はじめ ----------

ステープ・トゥアクスパンPDRC委員長のラチャダムナン集会における演説の要旨
13 May 2014 

(演説全体の非公式英語翻訳は以下にあります)

(20:40) 今晩は、愛国者の皆さん。この場にいらっしゃる、タイと海外からの様々なレベルの愛国者の皆さん。

(20:42) 今日ここにいる全ての人は、私も含めて、今晩の祈りの国家式典の際のどしゃ降りで、ずぶ濡れになりました。私は、議会の側のステージで、友人たちと話すために駆け寄っていたもので、着替える暇がありませんでした。びしょびしょですが、しかしながら、あなた方みんなが私と共にここにいてくださるので、すごく幸せな気分です。

(20:43) 今日、"24人の母"と名乗るグループが、この縞模様(訳注: タイ国旗)のお弁当箱をくれました。うまいものが入ってるんだろうと思ったんですが、彼女たちに、肌身離さず持ってなさいよと念を押されて、ちょっと困惑しました。そこでやっと、この愛国的弁当箱の中身が、10万バーツの現金だとわかりました。そのグループは、縞模様が描かれた特別のTシャツもくれました。それに加えて、また別の親切な婦人のグループからも4万バーツ頂きました。皆様の寛いお心にとても感謝しています。

(20:47) 我々は、我々が誰と戦っているのか、折に触れ思い起こさねばなりません。それはもちろんタクシン体制です。この体制では、あらゆるものをお金で買います。政治家を買い、公務員を買い、選挙を買います。何故なら、それらは経費とみなされるからです。一度オフィスに入り込んだら、その地位を利用して利益を追求するのです。タクシン体制は民主主義の対局にあります。それは、腐敗と独裁と資本主義戦略が一つに混ざり合ったものです。これがこの体制を引っこ抜いてタイから根絶やしにしなければならない理由です。我々の子孫たちに値するものは、滅んだタクシン体制の残り物といったものよりも、はるかに良いものでなければなりません。

(20:52) 大衆の考えでは、タイの謎多き選挙システムの意味するところは、政治は手っ取り早く金持ちになる保証だ、ということです。そして"政治家"とは泥棒と同義。タクシン体制ではこの考えを推奨するのです。定まった給料に加えて、一方で、政治家や党員に命じて金を受け取らせることで、彼らを雇うのです。別の言葉で言えば、提案されたすべての政策に判を押す"イエスマン"と"イエスウーマン"を購入するのです。政治家の質など無意味です。過去には政治家たちのお抱え運転手が選挙運営に派遣されていることさえ見たことがあります。

(21:02) 政党政治を破壊したことに加えて、タクシン体制は議会制度を粉々に打ち砕きました。この体制の賛同者は議会での多数派という立場を悪用して、倫理にもとる法案を通過させました。それは例えば、元老院が通したものですが、タクシン・シナワトラの犯罪と汚職を塗り隠し、悪事を働いたことで国家に押収された460億バーツの資産を、利子をつけて返済するというような、忌まわしい恩赦法案のようなものです。

(21:07) タクシン体制は、その利益にもとずいて法案を通過させる段になると、モラルの限度というものが存在しないのです。その結果、タクシン体制下の人民代表院(訳者註2) の議員たちが、憲法修正の草案に関わる資料を実質的に改竄し、他の議員になりかわり一人の議員が多数の票が投票できるように導いたのです。独立した不法行為に加えて、これらの手続き上の不法行為が、体制のへつらい者達が提案した、憲法にそぐわない法律草案を、憲法法廷をして、制定させるまでに失墜させる原因ともなったのです。

(21:12) タイ愛国党に始まってタイ貢献党の至るまで、タクシンに任命された政府と議会が、三世代に渡って続いているのを目撃してきたことは、まさに仰天です。タクシン体制の政府の一貫したテーマは、法というルールへの弾劾です。彼等は法に支配されることを拒み、我々の民主主義の源泉である三権分立を拒否しました。タクシン体制は行政、司法、立法の三つの権威すべてを支配することを望んでいるのです。幸いなことに、タクシン体制の追随者による法制度への恐喝や嫌がらせの試みにも拘らずタクシン体制は、今までのところ、我々の裁判所までには浸透することに成功していません。

(21:22) タクシン体制は、公務員達の間にもまた浸透しています。能力に拘らず体制への忠誠心を植え付けることで、組織化された汚職と、政治家や支持者達への収賄と並んで、いかさま師的な政策と計画の実行が、ほとんど保証されているのです。

(21:29) 真の民主主義の反映にとって他の重要な源泉は、報道の自由です。しかしながら、タクシン体制の金と脅迫の戦術の下では、メインのメディア企業は自由のかわりに、タクシンの支持者や、彼に任命された当局に仕えることをしばしば選びます。マティチョン紙やカオソット紙などは特にそうです。反対に、異なる政治的視点を表現するジャーナリストは、チャイ・ラチャワット氏(有名な風刺漫画家)のように、繰り返し爆破の脅迫に直面することとなります。故に、大衆は総体的でバランスのとれた情報から隔離されており、より信頼できるニュース・ソースとして、ソーシャル・メディアに頼らなければならないことになります。

(21:35) 彼が犯した種々の犯罪にも拘らずタクシンは、白々しくもロビイスト達を雇って、でっち上げのお涙頂戴話を国際世論に売り込んでいます。
飛行機で世界中を華やかに飛び回っているタクシンは、いかなる意味でも、「自ら課した亡命に耐えている」わけではありません。この男は、有罪判決とわが国の司法システムから逃げているだけの、単なる逃亡犯なのです。

(21:39) 我々のタクシン体制との戦いは、必要で正当なものです。我々の子や孫により良き未来を保証する為にも、この体制を引き抜き根絶しなければならないのです。この体制に対する、我々の戦い、我々の丸腰で平和的でデモは、憲法に記されている我々の権利です。憲法の第六十九条には次のようにあります。「この憲法に記された方式に依らない手段によって国を統治する力の獲得の為になされた行為に対して、人は平和的に抵抗する権利を有するものである」 これはまさしく、タクシン体制の暴虐と独裁に対する我々の平和的抵抗の中で、我々が行なってきたことであり、行い続けていることなのです。我々は20人を超える友人を失い、また数百もの負傷者を出しましたが、我々は今だ平和的であることに留めています。

(21:44) 我々は反逆者ではありません、我々は愛国者なのです! 我々にそれ以外のレッテルを貼る人は深刻な過ちを犯しています。我々の国家を二分することを求め、気ままな欲望に溺れることの出来るタクシンの大統領職をもたらそうとする分離主義者こそが、反逆者なのです。これが我々が引き下がらない理由です。これが、現在シンガポールにいるタクシンと交渉する、いかなる試みをも斥ける理由です。大タイ国国民は詐欺や犯罪とは妥協しません。タクシン、お前はタイを支配しようする、これが我々が、絶対に、完璧に、お前を拒絶する理由だ。

(21:53) 現在の危機から抜け出す結論に速やかに到達するよう元老院にお願いしています。我々も、ただあてもなくふらふらしていては駄目です。この「戦争」に勝ったと決して思わないでください。我々には元老院がどんな決定を下すかわかりません。もしまだ彼等が、逃亡者タクシンの為に便宜をはかろうと試みているのなら、大タイ国国民は、この問題を自らの手で解決するべく身構えておかねばなりません。

(22:01) 今日午後4時に、私は現在の状況について発表し、それはタイ全土で報道されました。現在我々国民には法的な指導者がいないので、この件については元老院に舵取りが任されることになります。それ故に、我々は元老院に対して、国民の声を聞いてタイをこの危機から救い出すように真剣に要求するのです。ありがとうございました。では皆様、おやすみなさい。

---------- 翻訳おわり----------

訳者註1 
元老院(วุฒิสภา)
上院に相当する議院で、定数は150議席。各県から1名及び都から1名選ばれる任期6年の民選議員(76議席)と、選考委員会から任命される任期3年の任命議員(74議席)で構成される。民選議員、任命議員ともに、満40歳以上、大学卒以上、非政党員などの条件がある。(wikipedia 日本語版)

註2
人民代表院(สภาผู้แทนราษฎร)
下院に相当する議院で、任期は4年。2011年2月に成立した憲法改正により、小選挙区比例代表並立制によって行われた。小選挙区比例代表並立制とは、選挙人が小選挙区比例代表のそれぞれに1票ずつ投票する制度。小選挙区から375人、比例代表から125人の計500人を選出する。



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マイケル・ヨン氏はアメリカの人で、独立取材を続けるジャーナリスト、コラムニストであり、また写真家でもある。2008年にNew York Times紙は、マイケル・ヨン氏のことを、最も長くイラクで戦闘部隊に従軍した作家であると紹介している。

日本では慰安婦問題で、公平な報道をする数少ない欧米人ジャーナリストの1人として知られている。

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